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東海大学 医学部 幸谷教授に聞く
アグレッシブNK細胞白血病(ANKL)について

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当社代表取締役社長・横川が
幸谷教授にANKLのお話をうかがいました

2023年3月、当社代表取締役社長の横川が、東海大学医学部で血液疾患をご専門とする幸谷教授に、稀少疾患アグレッシブNK細胞白血病(ANKL)の治療薬研究開発についてお話をうかがいました。
幸谷教授はANKLの基礎研究の第一人者で、当社の抗トランスフェリン受容体(TfR)抗体PPMX-T003がモデルマウスにおいて治療効果を有することを世界で初めて見出されました。この研究結果を受けて、当社のT003によるANKL治療薬開発がAMEDの事業に採択されております。
先生は現在も精力的にこの研究を続けていらっしゃいます。

対談者のご紹介

幸谷 愛(こうたに あい)

東海大学医学部先端医療科学 
東海大学総合医学研究所造血腫瘍分野 教授
京都大学医学部卒業、 京都大学大学院 医学研究科 (博士課程内科学専攻)修了。
京都大学医学部附属病院、 静岡市立静岡病院で研修医を務めた後、大学院修了。
その後京都大学、MIT Whitehead Institute for Biomedical Research 学術振興会特別研究員 (PD)、東京大学 医科学研究所先端医療研究センター / 血液腫瘍内科 助教を経て2011年より東海大学にて勤務。現在、東海大学医学部先端医療科学 東海大学総合医学研究所造血腫瘍分野 教授。

ANKLとはどんな病気か

横川:
幸谷先生、本日はよろしくお願いいたします。まず、ANKLがどんな病気か、あらためてご説明いただけますか?
幸谷:
はい。ANKLは日本で年間20症例程度の稀少疾患です。
相当進行が早く、ANKLと診断がついたときには、抗がん剤を使える体力が残っていないため、治療が行えないという場合もあり、きわめて予後の悪い病気です。
特にAYA世代(15~39歳まで)と40代の患者さんが多いという特徴があります。
体調不良を感じて病院に行っても、ANKLの診断がつきにくく、治療開始が遅れる傾向もあります。
横川:
症例が本当に少ないですね。先生は、どのくらいの症例を経験されていますか?
幸谷:
私自身、京都、静岡、東京で臨床勤務した9年間でも1例も行き当たらず、ここ東海大学病院で2016年に患者さんを診たのが初めてです。東海大学病院は西神奈川の拠点病院で患者さんも多く、血液疾患のハイボリュームセンターですが、それでも私が勤務している12年間で、2例のみです。
1名の方はご自分の血液幹細胞を移植した結果、幸いにも1年間存命されましたが、その後残念ながら再発して亡くなられました。この患者さんが非常に研究に協力的な方で、「今後の治療薬開発に役立てるなら」と、ご自分の検体(血液)を亡くなるまでの3週間毎日採取させてくださいました。この患者さんのご協力によってモデルマウスの作製に成功したことが、後の研究が飛躍的に進んだきっかけです。

モデルマウス:治療効果などを研究するために、患者さんの細胞を移植した動物実験用マウス

研究での新発見

横川:
モデルマウスの解析でどんなことがわかりましたか?
幸谷:
これまで、がんは骨髄にいるというのが常識でした。
ところが、モデルマウスの解析で、骨髄ではなく肝臓に多数存在していることがわかったのです。
これまでの常識を覆す大きな発見でした。通常、白血病の診断は骨髄穿刺で行いますが、骨髄や末梢血にはあまりANKL細胞が存在しないので、ANKLだという診断がつきにくいのもうなずけます。
横川:
骨髄ではなく肝臓で増える理由はわかっていますか?
幸谷:
まだよくわかっていませんが、ANKL細胞は非常に多くの鉄を必要とする細胞です。
このため、トランスフェリンを作っている肝臓に集まってくるのではないかと推測しています。
抗TfR抗体であるT003は、鉄の取り込みを阻害するため、肝臓に存在するANKL細胞の除去にとてもよく効きます。
がん細胞はなぜか初期は肝臓自体を痛めつけずに、肝臓の血管内でだけ増えていくのですが、最終的には肝不全になってしまいます。
このように肝臓の血管内でだけ病原体が増えていく疾患はほかにもありますので、今後ほかの血液疾患にも効いてくれれば嬉しいと思っています。

ANKLの研究開発の状況

横川:
ANKLに関する研究開発はどのように進んでいますか?
幸谷:
ANKLの発症例は中国、韓国、日本等東アジアに多く、欧米では少ないため、日本での臨床研究が進んでいます。
特に島根大学、信州大学ではかなり熱心に研究されています。
また、200万人の医療圏を抱える東海大学でも、血液内科での研究が進んでいます。
横川:
幸谷先生のラボはどのような構成ですか?
幸谷:
私を含めたスタッフが3名、ポスドクが3名、博士課程学生が1名、修士研究員が1名、修士学生が2名、卒研生2名で、このうち常勤は12名です。全員熱心に取り組んでくれています。

医師主導治験について

横川:
医師主導治験の治験計画書の調査も終了しました。
今後複数の病院で治験が開始されるわけですが、希少疾患ですので、患者さんの参加がどうなるかが読みにくい面があります。
幸谷:
ANKLは診断が難しいという面もありますが、各地の基幹病院で1例1例丁寧にフォローしていけば、7例は実施できると思います。
横川:
ぜひ順調に進んでほしいと願っております。今回詳細にお話しいただいたことで、あらためてANKLの厳しさがよくわかりました。
医師主導治験に寄せる期待はいかがでしょうか?
幸谷:
そうですね。今、患者さんの平均生存日数は2か月未満、58日と言われています。
今回の治験では、T003によって完治までいければベストですが、少しでも延命できれば効果は大きいと思います。
そうすれば、次の治療方法も見つかる可能性があります。今は打つ手がなく、積極的な治療ができません。
若い患者さんも多いですので、次の治療までの時間が作れることは意義深いと考えています。

稀少疾患への注目

幸谷:
あと、ANKLは最近タイでも症例が増えてきていますが、これは医療技術の発達により、ANKLの診断がつくようになってきたことも関係しているかもしれません。このため、今後もっと発症例が増える可能性もあると考えています。
そうなると、メガファーマにも稀少疾患への興味を持っていただけるのではないかと思います
横川:
おっしゃるとおりですね。最後に、この治療薬開発にかける想いを語っていただけますか?
幸谷:
まず、ここまで来られたことが感慨深いです。
これまでANKLを含む血液疾患の研究開発に地道に取り組んでこられた先生方、研究に協力していただいた患者さん、熱心に研究に取り組んでいる研究グループの皆さん、創薬事業で支援いただいているAMEDや文部省など国の機関、そしてT003をご提供いただいた御社、つまり企業の取り組みが、いっぺんに連携できたことは本当に幸運だったという他ありません。
今後の医師主導治験においても、この幸運が続くことを心から願っております。
横川:
私も同じ思いです。本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。