みなさん、こんにちは。社長の横川です。
前回に引き続き、今回も放射性医薬品をテーマにお届けします。
今回は、治療用放射性医薬品に使われる主な放射性同位体(RI)の特徴を整理したうえで、β線とα線の違い、α線放出核種の開発動向、そして供給確保に向けた国内の取組みについてご紹介します。
治療用放射性医薬品に用いられる主なRI
現在、医療現場で治療用放射性医薬品に用いられている主なRIには、次のようなものがあります。
治療用放射性医薬品に用いられているRIの種類と特徴
β線とα線の違い
現在、治療に用いられている放射性医薬品の多くはβ線を放出するタイプで、さまざまながん種で実績があります。β線は飛程
1) が数ミリメートルと比較的長いため、標的が小さい場合には、その周囲にある微小な病変にも放射線の効果が及ぶという特徴があります。また、β線は低LET
2) 放射線に分類され、DNAの「一本鎖切断」を主とする比較的穏やかなダメージを与えるため、細胞が修復機能を持つ場合もあります。
一方、α線は高LET放射線であり、エネルギーが非常に高いため、DNAの「二重らせん構造」を直接断ち切る(二重らせん切断)強力な力を持っています。α線は飛程が細胞数個分と極めて短く、狙ったがん細胞をピンポイントで攻撃し、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えつつ強い細胞障害を与えられます。このように、従来の治療では困難だったケースへの効果も期待できることから、次世代の治療用放射性医薬品として大きな期待が寄せられています。
α線とβ線の主な違い
α線治療の特徴
ラジウムはカルシウムと化学的性質が似ているため、骨代謝が盛んな部位に集積しやすい性質があります。
223Raはこの性質を利用し、骨転移部位に近接するがん細胞を強力に傷害しつつ、より深部にある骨髄への影響は相対的に抑え得る核種として、医療現場で用いられています。これまで、技術的な課題から、α線を放出するRIは、「骨に集まる」といった自然な性質を持つ
223Raのような集積性を利用する核種が中心でした。しかしその後、
225Acについては、抗体やペプチドと結合させることで、標的に応じた体内送達を目指せる点が注目されてきました。あわせて、製造や標識に関する技術開発も進展してきました。
これを受けて、
223Raのように自然な集積性を利用する核種に加え、抗体やペプチドと組み合わせて用いることができる核種として、
225Acを用いた治療用放射性医薬品の開発が注目されています。
225Acの供給確保に向けた国内の取組み
一方で、開発が進むにつれ、医薬品として使用可能な
225Acの供給不足が大きな課題として認識されてきました。そこで国内では、内閣府「創薬・先端医療ワーキンググループ」において、放射性医薬品の開発・製造・利用やサプライチェーン強化の在り方が議論されており、供給確保に向けた取組みが進められています。※
放射性医薬品に対する社会の期待は、ますます高まっています。
225Acを用いた当社開発候補
PPMX-T002は、卵巣がん、頭頚部がん、肺がん等の固形がんの表面抗原CDH3に結合する抗体に、RIとして
225Acを用いた治療用放射性医薬品候補です。これまでの開発経緯から治験前段階の検討が蓄積しており、当社として重要なパイプラインと位置づけています。
皆さまには、引き続き当社へのご理解・ご支援をよろしくお願いいたします。
用語解説
1)飛程(ひてい)
放射性核種から放出された粒子線が組織中を進み、エネルギーを失って停止するまでの距離。
2)LET(線エネルギー付与:Linear Energy Transfer)
放射線が物質中を進む単位長さあたりに失うエネルギーを指します。治療用放射性医薬品では、放出された粒子が組織にどれだけ密にエネルギーを与えるかを示す重要な指標です。単位は通常 keV/µm です。この値が高いものを高LET放射線(α線など)、低いものを低LET放射線(β線、X線など)と呼びます。
補足資料
※
https://www8.cao.go.jp/iryou/ss_wg/agenda0226.html